TCGの大会の試合が従属試行であることを用いた優勝確率の向上

以前の記事

http://d.hatena.ne.jp/snow-press/20180102


では、マッチ戦ではどんなデッキにも同じくらい勝てるデッキの方が勝率のバラつきがあるデッキよりも有利であると主張した。
では1本勝負では本当に差はないのだろうか?


分かりやすい例で考えることにする。


一つはどんなデッキにも勝率2/3のデッキx
もう一つはデッキAには絶対勝て、デッキBには絶対勝てないデッキyである。
今回デッキAは環境に2/3、デッキBは環境に1/3いるとする。
この場合、1戦目の勝率は両方2/3である。
なお、デッキAとデッキBが戦った場合の勝率はどちらも1/2とする。
4人でのトーナメント戦を考える。


優勝確率


デッキx

(2/3)^2=4/9

デッキy

2/3*1/2=1/3


よってxの方が優勝確率が高いと考えられる。
しかし1本勝負だと勝率に差はないはずである。
これはおかしいと思う人もいるだろう。

では4位になる確率を考える。


デッキx

(1/4)^2 = 1/16

デッキy

0


最下位にならないということを目的とするならデッキyの方が良いという結果になっている。


このような状態が生じる理由は、大会での試合が独立試行ではなく従属試行であるからである。
勝率にバラつきがあるデッキを使っている場合、自分が勝ったということは、当然有利な相手(カモ)と当たった確率が高いということになる。
その当たった相手とは絶対に再び戦うことはないのだから、次の試合はカモと当たる確率は低くなっている場合が多いのである。
逆に自分が負けた場合、次はカモと当たる確率が少しだけ高くなるはずなのだが、そもそも負けているのでその「次」が存在しないのである。(ただし3位決定戦のような場合を除く)
よって1本勝負でも勝率の幾何平均が高いデッキを用いる方が、優勝確率を上げるという目的の上ではちょっとだけ有利である。



<ここからが本題>




しかしここには一つ制約がある。それは、他のデッキ同士の勝率はみな50%と仮定していることである。
上の例ではAとBが戦った場合の勝率を1/2と仮定したが、ここを仮にデッキBがデッキAに必ず勝てるようなデッキであるとすると、yは絶対に優勝することができない。また、xは4/9で優勝できる。
一方AがBに絶対勝てるとしたらどうだろうか。xの優勝確率は変わらず4/9であるが、yの優勝確率は2/3=6/9まで跳ね上がることになる。
この例においては、デッキAの優勝確率は勝率のみに依存するといえるのに対し、Bの優勝確率は自分のデッキの勝率だけでなく、他のデッキ同士の勝率にも依存しているといえる。

つまり、優勝確率を上げるためには


・自分のデッキがどのデッキにどれくらい勝ちやすいのか?
・環境にどのデッキが多いのか?


だけでなく、(例え自分が使う予定がないようなデッキであっても)


「環境に存在するデッキのどれが強い(弱い)のか?」


という情報を把握する必要があるのである。

前者2つは、初期状態(つまり最初の試合)における勝率を決定する。対して後者は、状態遷移(すなわち1試合行うという動作)後の勝率を決定する要因となることになる。

これを用いる、つまり、

1.自分が使わないデッキ同士の対戦の結果の傾向を把握

し、

2.生き残る確率が高いと思われるデッキに有利なデッキを組む

ことで

3.優勝確率を向上させる(後の試合の勝率を向上させる)

ことが可能なのである。

(誤解する人がいそうなので言っておくが、環境内に存在するあるデッキの数が多いことと、そのデッキが強いことは別である。環境内にあるデッキが多いということは、最初に勝率という形で織り込まれることになる。一方デッキが強いということは、予選1戦目から決勝にかけてそのデッキの割合がどんどん増大していくことになる。
例えば環境に存在するあるデッキが総参加者の5割くらいいるような環境であるとしたとしても、そのデッキが他の全てのデッキにガンメタされていた場合、予選時より決勝Tで割合が減っている可能性がある。この場合そのデッキは強いとは言えない。(もちろん多数がそのデッキを使っているので、対策する価値はあるといえるのだが…)すなわち、そのデッキの"勝率"が重要である)


したがって、
「あるデッキCには勝てないが、別のあるデッキDにはかなり勝ちやすい」
というデッキは、同じ勝率の、どんな相手にも勝率が同程度のデッキに比べ、(デッキDが環境内に存在する他のデッキより有利と考えられる環境において)利用価値があるといえるのである。


なお上の例はトーナメント戦であるが、予選でも同様なことがいえる。
予選では勝った者同士が次で戦うことになるからである。


「同じ勝率なら、苦手なデッキにもワンチャンある方が有利」
という理論は場合によっては(その苦手なデッキが環境内に存在する他のデッキに強くない場合)誤りであることが分かってもらえたと思う。



最後になるが、この生き残る確率が高い(と思われる)デッキを知っていることによる優位性は、後半になるごとに高まっていく。すなわち、参加者の多い大会であればあるほどこの情報を知っている方が良いということになる。また、同様に1本勝負よりマッチ戦の方が良い。なぜなら、後者の方が実力の高いデッキがより勝ち残りやすいからである。